ラベル ★★★★★ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ★★★★★ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2014年11月25日火曜日

0.5ミリ

★★★★★

俳優・奥田瑛二の長女で映画監督の安藤桃子が、実妹・安藤サクラを主演に起用した初の姉妹タッグ作品で、自身の介護経験から着想を得て書き下ろした小説を 映画化した人間ドラマ。介護ヘルパーの山岸サワは、派遣先の家族から「冥土の土産におじいちゃんと寝てほしい」との依頼を受ける。しかしその当日、サワは ある事件に巻き込まれ、家も金も仕事も全てを失ってしまう。人生の崖っぷちに立たされたサワは、訳ありの老人を見つけては介護を買って出る、押しかけヘルパーとして生きていくことになる。共演に柄本明、坂田利夫、草笛光子、津川雅彦ら。(http://eiga.com/movie/80677/より)

個人的には今年は邦画がかなり当たり年で、中でも本作はトップに位置する面白さだった。しかし邦画に関して言えばあまりにも有象無象の作品が多すぎるので僕自身が「自分好みの作品を嗅ぎ分ける嗅覚」を体得しただけなのかもしれない……

高知を舞台に繰り広げられるこの作品は安藤サクラ演じる介護士の視点を通じて、ゆくゆくはこの日本が行き着く先の未来を描いている。

息子たちの財産争いに悩まされる老人、コツコツ貯めた金を怪しい投資に持ちかけられる老人、痴ほうの妻に悩まされる老人……
全員が社会への居心地の悪さを抱き、孤独感を感じている。

その老人の元へ安藤サクラ演じるサワはほとんど押し掛けるかたちで介護にいそしむ。
正直そのコミュニケーション能力、家事スキルがあれば別の仕事や果ては良き主婦にでもなれそうなのに、彼女はなぜか「老人の介護」にこだわる。

そして彼女のキャラクターの魅力の凄まじさ。
大げさな表現になるかもしれないが、もはや神聖な雰囲気すら感じてしまう立ち居振る舞いだ。
一見すると老人の弱みに付け込んでは家に住み着いているようにしか見えないのだが(つまりは恐喝です)、彼女が行うととてもコミカルで笑えてしまう。無邪気さに惹かれるのだろうか。
介護にこだわる理由や、彼女の雰囲気に関しては後々の展開で納得させられるシーンがあるのだが、そこに見える悲しさもいいと感じてしまう。

シーンの画も一つひとつが丁寧で、監督の映画愛が感じられるシーンもチラホラ。
何より監督と主演の姉妹の母親がフードコーディネーターを行っており、サワの作るご飯は半端なく美味そうだ。食にほとんど興味がない僕が反応するくらいだから、相当のことだと思う。

老人を演じた俳優陣も多種多様に素晴らしかったが、津川雅彦の独白(パンフレットには7分間とある)が凄まじかった。
ネタバレになってしまうので伏せるが「アルツハイマーで自分の記憶を無くしても、戦争については忘れられない」ことが見る側からすると本当に衝撃だ。

原作本を読んでいなかったので読む楽しみも増えた。感謝したい。

2014年1月30日木曜日

2013年 日本のヒップホップベストディスク Pt.2


続きです。前回はこちら
#10 WATT a.k.a. ヨッテルブッテル『Shikou品』



 まずは諭吉レコーズからのデビューとなったトラックメーカー/ラッパーのアルバムを。
シンセでギャンギャンしたトラックが主流の今、温もり豊かなサンプリング中心に編まれた13曲は彼自身の人柄が表れているラップで聞いていて非常に気持ちいい作品です。
ラップはNORIKIYOのフロウにボンクラ感と優しさをいい塩梅で混ぜた感じで、今後も聞き続けていきたいラッパーの一人です。NORIKIYOの例のわざとらしいスキットよりも、レコーディングに遅刻している先輩(KYN)に電話をするぎこちないやり取りの方が、リアリティがあって面白いと感じました(SD JUNKSTAの職質スキットも好きなんですけどね)。

#9 RIP SLYMEGOLDEN TIMES


ヒップホップの枠を最も自由にいじくり回して、僕たちリスナーに新たな驚きを与えてくれる「センスオブワンダー」なグループ、リップスライム。
とか言いつつも『ロンバケ』『ジャングルフィーバー』と立て続けに出たシングルは派手さに欠けて不安に思っていたことも事実ですが……アルバム発売前に出された『SLY』で完全に復活を遂げましたね。他の配信シングルもアルバムの曲として機能していて、きれいにまとまった作品だと感じました。
#8 Smrytrps『ぐんじょうのびろうど』














9位に続いてキャリアの長いラップグループの作品を8位にしました。前々作、前作に続いて「色」をテーマにしたコンセプチュアルな作品ですが、今作が一番バランスが良く好きです。
僕はSemmyが数いるラッパーの中で最も好きなラッパーの一人なので彼のラップを聞けるだけで幸せになれるのですが、今作は曲によってはkつてのメンバーも全員揃っているものもあったりで非常に泣かせる作品です。この作品で活動に一区切りつけるようなのですがもったいなさすぎる。
とはいえメジャーデビュー⇒解散なんて事態に陥っても復活した彼ら。僕らは全然待ってますよ。
#7 サイプレス上野とロベルト吉野『TIC TAC



作品単位で彼らの魅力をあまさず凝縮することに初めて成功した作品だと思います。
ヒップホップ以外のライブの出演など対外試合が多い彼らですが、「地元」をキーワードにユアソンやスペアザといった他ジャンルのアーティストと積極的にコラボしている姿勢も非常に頼もしい。「シーン」なんてとこにいると過小評価されるだけなんでもうロキノン層に殴り込みをかけていってほしい!

#6 V.A.160R80 

ラップのコンピレーションアルバムで初めて1個の文句も出なかった作品。大ベテランから一歩間違えれば素人寸前の人まで詰め込んだカオスなメンツですが、そのすべてが「JUKEFootwork」の名のもと完全な調和で成り立っています。驚き。
リデカの二人がここまでエモい曲を作り上げてくることにもびっくりしたし、衰えを知らないECDが放つ「にぶい奴ら(は)これ分からないまま一生可哀想」「荒野目指せ」というパンチラインに痺れる。

全体を仕切っていたのがタイ在住の商社マン兼駆け出しトラックメイカー(?)であることも
面白い。
#5 KUTS DA COYOTEESCAPE TO PARADISE

当ブログでは満点をつけた本作ですが、全体ランクとしては5位にしました(星はあくまでおすすめ度という位置づけです)。

しょうもないトピックをひたすら面白おかしく聞かせるセンスに脱帽。

記事はこちら

#4 5lack × Olive Oil5O
好きなトラックメイカーと好きなラッパーのコラボほど嬉しいものはないですね。福岡がよっぽど居心地が良かったのか、5lackのラップがテンション2割増になっていることが印象深かったです。


#3 SALUOHLD Presents BIS2
3位は昨年鳴り物入りでデビューしたSALUのメジャーデビュー前の置き土産を

本作、リリース直後こそは話題になったものの、有名アーティストのフリー作品だと年末のアナーキーに話題が集中してしまいこちらの影が薄まってしまったのは非常に残念です。

タイトル通りOHLDがトータルプロデュースした本作は、はっきり言ってデビュー作の『IN MY SHOES』を軽く凌駕するクオリティです。Bach Logic主導のメジャー感のあるものと、OHLD主導のダウナーなものが入り混じると、やはり華やかなBL側に耳をひかれますが、全体のトーンをOHLD一色にするとひじょうにスムースに聞けて驚きました。

歌詞の内容もストリート寄りのものも多く、こんな良盤を残してくれればメジャーでの活躍も(当然路線は変わるだろうけど)期待せざるを得ません。

#2 VITO Foccacio『絶望の館


2位はSQUASH SQUADでの活躍はもちろんのこと、2012年末に出たソロ初作もずば抜けてよかったVITOの新譜を。

金属質な声と柔軟性あふれるフロウを武器にあらゆるトラックを乗りこなす、僕が日本でトップレベルに好きなラッパーですが、本作は写実性あふれるリリックを携え一作丸々ホラーもののストーリーテリングを繰り広げます。
トラックもクラウドラップ的な実験性の高いものが多いですが、M-5のTAKUMA THE GREATを招いたSOSがハードロック調のトラック上で狂った歌詞をまき散らす二人の魅力を存分に味わえます。
余談ですがタクマザグレートは客演ではどの作品でもいい仕事をしている印象が。フォルテ離脱のゴタゴタがあったけど(外野としてはどっちが悪いとかは知る由もないが)、あのパワフルさと知性を混ぜ合わせたラップスタイルはとても魅力ですね。
#1 環ROY『ラッキー
そして2013年の1位は環ROYの4枚目のフルアルバムを。
作品もさることながらリリースライブのパフォーマンスの完成度が素晴らしかったです。

記事はこちら。


…そんなこんなでしれっと後半がダダ遅れでの更新となってしまいました。
2013年はこんな記事もあって国産ヒップホップのファン層の好みの多様化が目立ってきているかなぁ と少し感じてきております(その分“最大公約数”を狙いえるアーティストも少なくなってきいている)。
一方でB.DやCherry Brownのメジャーからのリリースといった明るいニュース(まぁユニバ=EMIのメジャーラッシュは某やり手A&Rの奮闘あってのものかと思いますが…)もあり、正直今年はますます色々なカラーが増えてきて、もう誰も把握しきれない状態になるかもしれません。

フリーDL勢はまったく追えておらず、これは実際PCにアクセス⇒DL⇒解凍⇒iTunesにインポートという流れが、実は結構手間だなという部分が理由としては大きいです(タダだし今年はディグっていきます)。
そんなわけで、今年もいい音楽に会えますように!

2013年10月11日金曜日

CUTS DA COYOTE 『ESCAPE TO PARADISE』

★★★★★

01. INTRO- (pro.HIDEHISA)
02. WATER & OXY feat.JOYSTICKK, JAZEEMINOR (pro.DJBA)
03. ESCAPE TO PARADISE feat.BUGASUMMER (pro.DJBA)
04. ASH TO ASH DUST TO DUST feat.DJ LAW (pro.DJBA)
05. HANDS UP SNEAKERHEADS feat.CAZINO(LUCK-END), OHLI-DAY(ICE DYNASTY) (pro.HIDEHISA)
06. CAN NOT SEE MY WEED (pro.LIL'諭吉)
07. ラブホなう feat.TOP(THUGMINATI) (pro.MONBEE)
08. WOMEN LIE MEN LIE feat.MICHO (pro.LIL'諭吉)
09. SKIT
10. BUGATTI VIRUS (pro.DJ アチャカ)
11. エエエエエエエメラ! feat.EMERALD (pro.DJBA)
12. WILL YOU STAY feat.KOWICHI, NIYKE ROVINZ (pro.YUTO.COM)
13. LIFE IS GOOD feat. MARIN (pro.DJBA)
14. TAKE2 AND 回そう (pro.DJBA)
15. IMAGINATHION feat.DJ601 (pro.DJ601)

エメラルドの首謀者的存在(といつもプロフィールに載っている)であるカッツ・ダ・コヨーテのデビューアルバム。2013年7月10日発売。

個人的年間トップの傑作。僕自身こういった路線の作品を好きになる時が来るとは思わなかったが、まんまとハマった。このままだと本当に年間ベストのトップになるだろう。

Amebreakのインタビューを読むとかなりの下積みを積んでいるようだが、「(専門学生の時)ちょうど、MEGUMIがグラビアに出てた時期で、『でっかいオッパイ……でっかい世界……』みたいなよく分かんない発想で、BIG WORLDってグループを作って」や、「BIG WORLDの後にサムライフってグループを組んだ」(いずれも凄まじいネーミングセンスだ)などといった作品に内在している思考回路は以前から健全だったようで現在組んでいるエメラルドも、「周りのソロでやってたラッパーが、みんなユニットとかクルーを組み出して、そこで取り残された連中が『俺たちもなんか作った方がいいのかな』って組んだのがEMERALDという期待を裏切らない&一貫してブレない姿勢に感動した。

タイトルからも明らかなように本作はとことん快楽主義的な作品で、しかし決して内容は一人よがりではなくラップの向こうにリスナーがいることが意識されている。
その最たるものが先行シングルにもなったM-07だろう。

もはや流行りの言葉でも何でもない単語を曲名に持ってくる図太さもさることながら、実はDAB○の「降臨なう」よりも断然面白く聞かせてしまうセンスの良さ。この一周まわって最早フレッシュに聞かせてしまう感性が素晴らしい‼

ウェッサイの浮遊感を下地に、ひたすら楽園を求めてさまようかのようなカッツのラップは歌詞も聞き取りやすく、リスナーをありとあらゆる手段で陽気にさせようとする。
完全に旬を過ぎた姉妹が題材のM-06、クルーのポッセカットのはずなのにあまりにやる気の無さすぎるフックが逆に印象的なM-11など突っ込みどころ満載だがとにかく楽しく聞ける。

トラックのほとんどを手掛けたforte所属のDJBAも幅広いプロダクションもさることながら、アルバムのど真ん中を支えたLIL'諭吉も相変わらずいい仕事をしている。

程よく力の抜けるよう計算された、非常にクレバーなアルバム。



2013年10月5日土曜日

きっと、うまくいく

★★★★★

インドで興行収入歴代ナンバーワンを記録する大ヒットとなったコメディドラマ。インド屈指のエリート理系大学ICEを舞台に、型破りな自由人のランチョー、機械よりも動物が大好きなファラン、なんでも神頼みの苦学生ラジューの3人が引き起こす騒動を描きながら、行方不明になったランチョーを探すミステリー仕立ての10年後の物語が同時進行で描かれる。(http://eiga.com/movie/77899/より)

にわかに注目を集めているインド映画だが、『ロボット』の印象が強く、破天荒かつ大味なイロモノ映画が多いのかと思っていたら、興行収入ナンバーワンを射止めた本作は直球なエンタメ作品。

160分という壮大な尺も一切だれることなく、腹がよじれるほど笑わせられたと思えば気付けば涙していたりと、感情のジェットコースターに乗せられたような最高の一本だ。

普通の映画作品であれば本作に出てくる挿話二三個でダラダラと二時間の映画を作るのだろうが、本作は過去を振り返る形式で学生時代のエピソードが主人公それぞれにスポットを当てたものから、本作の悪役である学園長(ホントは悪い人ではないんだが…)の家族にまつわる話まで、幅広く取り上げており、感情移入の度合いが他の映画の比ではない。
 
映像表現も難病をギャグとして映したり、時に登場人物がミュージカル風に歌い上げたりと観る者を飽きさせない工夫がなされている。

何より素晴らしいのが主人公であるランチョーのキャラだ。

成績・就職至上主義のエリート大学に「本来の学問のあり方」を問い続け、体制に屈することなく自らの信念を曲げずに学園長に立ち向かう姿勢はヒーローそのものだ(おまけに成績は大学トップなのだから恐れ入る)。

インドでも自殺が社会問題になっているようで、本作でも度々問題視される。

受験や進学、または就職に苦しみ、命を絶ってしまう極端なエリート社会のインドに、自殺大国である日本の病理を重ねて見てしまう人も多いのではないか。

ランチョーが周りの人間が困っている時に言うセリフ「アール・イズ・ウェル(All Is Well)」が邦題の由来だろう。

英語のタイトルが「3 idiots」のようだが邦題の方が本作を的確に表している。ただ単に3バカが大騒ぎする青春ムービーではないからだ。

この「アール・イズ・ウェル」が大活躍するエピソードが本作の最大の見せ場だろうか。

伏線が丁寧に張られた作品で、ラストに明らかになる、ある人物の真実もニヤリとすること間違いない。